バルサナの丘からの風景
ゴクール(Gokul)の聖地巡礼
聖地巡礼でまず訪れたかった地域は、ホーリーの季節に訪れると良いとされているラーダの生まれ故郷であるバルサナという土地です。
去年はこのバルサナにホーリの季節に訪れ、全身が色で染まりました。
ホーリの盛り上がりは楽しかったのですが、静かに参拝をしたかったので、今年はホーリの季節を避けて4月に訪れることにしたのです。
私がこの2年ほど滞在しているブリンダヴァンはインドで最も崇拝されているクリシュナという神様が幼少期と青年期の大部分を過ごしたと考えられている、インドの人たちが一生に一度は巡礼に訪れたいと願っている聖地です。
外国人にはリシケシュやバラナシ、プーナ、ゴアなどの観光地に比べて、それほど知られていない地域です。
しかし、インドの人々でヒンドゥー教であれば、ブリンダヴァンを誰もが知っています。
本当に一生に一度は訪れたい場所なのでしょう、とても暑い季節にも関わらず週末はいつも街中が大混雑になります。
バスで遠くからブリンダヴァンを訪れ、道端で料理をして野宿をする人々を通りでよく目にします。ホテルや宿に宿泊する経済的余裕がないのでしょう。しかし、それでもインドの人々にとってブリンダヴァンは訪れたい場所なのでしょう。彼らは道端で食事をし、眠り、そして日が昇るとお寺に参拝に行きます。
クリシュナは青い身体を持って生まれてきた神様です。ヒンドゥー教の数多くいる神様の中でも、最高神として崇められている神様なので、きっと見たことがある方も多いのではないかと思います。
ブリンダヴァンは、クリシュナと一緒に崇拝されている女神様であるラーダとクリシュナが出会った場所であり、数々のパスタイム(Pastime)と呼ばれる至福の時を過ごしたことで知られている場所です。ヒンドゥー教の本に載っているたくさんのストーリーにまつわる場所が各地に存在しているので、できるかぎりそのような場所を訪れようと巡礼者たちは足を急がせます。
これらのクリシュナが育ち、幼少期を過ごした場所を「ゴクール」と呼びます。
ブリンダヴァンはゴクールの中でも最も重要だとされている街で、今でも5,000以上のお寺が存在しています。
多神教のヒンドゥー教
多神教であるヒンドゥー教はたくさんの神様がおられるので、何度聞いてもどの神様とどの神様がどのような関係性をもっているのか、こんがらがってしまうことがあります。
不思議なことに、クリシュナは、ヒンドゥー教の3人の主な神様の内のヴィシュヌ神が、地球に生まれてきたアヴァターだとされています。
ということは、クリシュナとヴィシュヌ神は同じ存在になるのです。
ヒンドゥー教の3人の主な神様はヴィシュヌ神、シバ神、ブラフマ神です。
このうちでヴィシュヌ神はPreserver(存続させる神)、シバ神はDestroyer(破壊する神)、ブラフマ神Creator(創造する神)です。
創造し、それを一定の期間存続させ、やがて破壊しては、新しく創造するという宇宙のサイクルを象徴しているものと解釈されます。
ヴィシュヌ神は地球に8回生まれてきているのですが、その内の一つの体現がクリシュナです。そして、もうひとり有名な神様はラーマになります。
その他のアヴァターはそれほど有名でなく、インドの人にもよく知られていません。
ラーダとクリシュナは結婚していない
ブリンダヴァンではラーダとクリシュナが一緒に崇拝されています。
ここでは、クリシュナよりもラーダがより崇拝されていて、みなさん挨拶する時、ありがとうという時には「ラーデ・ラーデ」と言い合います。
「ハーレ・クリシュナ」とも言いますが、より多く「ラーデ・ラーデ」と言い合うのは、クリシュナがやがてブリンダヴァンを去ったのに対し、ラーダは最後までブリンダヴァンに残ったからなのだそうです。
ラーダはクリシュナを理解し、クリシュナの最高の信望者なので、クリシュナに到達する道は、ラーダの信仰を通して到達できると、ブリンダヴァンでは教えられています。
ここで、不思議な事実に気がつきます。
ラーダとクリシュナは結婚していないのです。
とても仲の良い神様ですが、結婚せずに、妻と夫がそれぞれいます。
クリシュナの妻はルクメニという女神様で崇拝されていますが、ラーダの夫はアヤン (Ayan)と呼ばれている方で、クリシュナの育てのお母さんのヤショーダの親戚にあたる人だそうです。アヤンは崇拝されていません。
クリシュナは悪い王に苦しめられていたたくさんの女性たちを助けるために、後に自分が王になってから何千の女性たち「ゴピ(乙女)」と結婚します。
このように見ると、クリシュナはとても気が多い男性のように見えますが、クリシュナがゴピ(乙女)たちと結婚したのは彼女たちを助けるためであり、クリシュナとラーダはお互いに最も愛し合っている存在です。
一つの魂のように、クリシュナとラーダが一緒にいると至福のエネルギーであたりが奇跡のように祝福される「リーラ」が展開します。
このクリシュナとラーダの「リーラ」のエネルギーを現在も感じることができるとされているのが、ブリンダヴァンと、その周辺の地域であるゴクールです。
かつてクリシュナとラーダのパスタイム(pastime)が繰り広げられた場所に訪れると、今でもその祝福の恩恵を受けることができるとされています。
結婚の文化が日本よりも根強いインドですが、このクリシュナとラーダのストーリーはすべてのヒンドゥー教のインド人の心に深く響いています。
しかし、みなさん頭で理解しているというよりは、心で感じているようです。
なぜラーダとクリシュナが結婚していないのか、となるとうまく説明できる人はそれほど多くはいません。